Webレポート│深掘り!鴨川生活Vol.2

大地の恵み、若手農家の情熱。

鴨川のご当地食材は、海産物だけではない。
野菜、お米の美味しさも格別だ。
農業の可能性に果敢に挑む若手農家を紹介しよう。

 千葉県の特産品とえば新鮮な魚介類をイメージするが、農産物の生産高も全国トップクラス。2018年度の野菜産出額では、1位北海道、2位茨城県に次いで千葉県が第3位。種類別では、落花生、ナシ、春菊、大根、枝豆、とうもろこし、さつまいも、にんじん、すいか、びわ等の多くの種目で千葉県産のものが2位にランクインをしている。

 なかでも千葉県南部に位置する鴨川は、夏涼しく冬暖かい海洋性の気候を活かし、葉物、果菜、根菜、果物、米、様々な農作物が年間を通して栽培される野菜大国。江戸時代、南房総は将軍家の天領として幕府の台所を支えてきた歴史があり、その伝統は現在も変わることなく、東京という巨大マーケットへ向けて新鮮な野菜を供給し続けている。

鴨川の農業を盛り上げる若手農家

 今、日本の農家は高齢化や後継者不足など多くの課題を抱えているが、一年中耕作可能で安定的な収益を見込める鴨川では、農業を受け継ぎさらに発展させたいと意欲を燃やす若手農家が多い。先祖代々守ってきた肥沃な土壌に独自の工夫を凝らし、多品種少量栽培の野菜づくりに取り組む鈴木健一さんもその一人だ。

 美味しくて安全な野菜をつくるため、ミミズや土壌微生物による土づくりをはじめ自然本来の力を活かした野菜づくりを日々研鑽。初夏のよく晴れた日に鈴木さんの畑へお邪魔すると、妻の智子さんとタマネギの収穫作業を行っていた。タマネギは手に取ってみるとずっしり重く、甘くてみずみずしいと評判だ。直売所に出すとすぐに売り切れてしまうという。

 タマネギ畑の隣にはトウモロコシ、ブロッコリー、サツマイモ畑が広がり、季節の移り変わりと共に旬を迎える野菜たちが続々と育てられている。「とれたて」をふんだんに使ったヘルシー&ボリューム満点の野菜料理が堪能できる。

美味しく、楽しく、身体にいい、高付加価値の野菜

 鈴木さんは健康食材のニンニク栽培に力を入れており、普通のニンニクだけでなく大人のこぶしほどの大きさがあるジャンボニンニクも栽培。温暖な気候が適しているジャンボニンニクにとって、冬でも温かい鴨川はまさに好適地。鈴木さんは肉厚で濃厚なジャンボニンニクを丁寧に育て5月下旬から収穫する。蔵の天井には陰干し自然乾燥中のニンニクが頭上を覆わんばかりに吊されていた。

 ジャンボニンニクはマイルドで食べやすく、丸ごとホイル焼きにして口に頬張るとジャガイモのようなホクホクした食感が楽しめ、なかなかの美味。見た目の大きさから臭いも強そうに思われがちだが、実はニンニク特有の臭いは弱く、気にすることもなく食べられる。しかし、栄養価はかなり高いので食べ過ぎないよう注意が必要だ。

 鴨川の地域おこしにも参加している鈴木さんは、幻と呼ばれる枝豆「鴨川七里」の復活に取り組んでいる。「鴨川七里」は芳醇な香りが特徴の在来種で、その名は「香り、七里に広がる」という言い伝えに由来する。戦後間もない頃までは、田んぼの畦で「鴨川七里」を栽培する農家も多かったが、栽培が難しいため徐々に減少。幻といわれるほど稀少になってしまった。

 昔、鴨川には、田んぼの畦で育てた大豆から味噌を作る習慣があったので、鈴木さんはそれを再現すべく「鴨川七里」で味噌を作っている。3年以上じっくり熟成発酵させており、色は八丁味噌のような黒褐色だが味はまろやかで、「鴨川七里」ならでは芳醇な旨味と深みが活かされている。

お米の国際大会で金賞に輝くプレミアム米

 鴨川は、明治天皇が即位されたときの大嘗祭に献上された神米の産地であり、市西部の山間には農林水産省の「日本の棚田百選」に選ばれた大山千枚田がある。
 南房総の嶺岡山系は新潟県の佐渡、南魚沼と肩を並べる蛇紋岩土壌で、我が国では稀少なエリアの一つ。特に、南に嶺岡山系を望む長狭地域は、稲の成長に必要なミネラル分が豊富に含まれる蛇紋岩土壌と良質な水に恵まれ、美味しいお米を育てるのに最適な環境なのだ。

 そして世界最大のお米の品評会「米・食味分析鑑定コンクール国際大会」にて、平成28年度に金賞を受賞した生産者が鴨川にいる。嶺岡山系の麓でこだわりの米づくりに情熱をかける満田安孝さんだ。蛇紋岩の多い重粘土の地質と嶺岡山系から流れ出るミネラルたっぷりの湧き水を最大限に活用するため、田んぼに植える苗の量を通常より削減。養分が行き渡るよう一本一本間隔を開けて田植えを行っている。面積あたりの収穫量は減ってしまうが、力強い稲が育ち旨味も凝縮されるという。

 自然由来の酵母・乳酸菌・納豆菌を発酵培養した肥料を加え、有益な微生物の活性化を促し、自然浄化力を向上。田んぼの中には、オタマジャクシやドジョウ、ザリガニ、ヤゴなどが棲み、初夏の晩は蛍が縦横無尽に飛び交う昔ながらの水田で、満田さんは渾身の“米”を育んでいる。
 蛇紋岩の土壌は底なし沼のように柔らかく、場所によっては膝近くまで潜ってしまうこともあり作業効率は悪い。しかし、たわわに実った稲穂が田んぼを覆い黄金色に輝くと、全ての苦労が報われるという。

 満田さんのお米は、生産量が限られているため直販が基本。リピーターが多く保冷庫で貯蔵しているお米も翌春には足りなくなってしまうとのこと。
 残りわずかとなった貯蔵米を分けてもらい、金賞受賞コシヒカリの魅力を最大限に引き出すため、土鍋を新調。お米の芯までふっくらと炊きあげたごはんは、粒感がしっかりしてもっちり粘りのある歯ごたえ。噛むほどに甘味が広がり、おかずなしでもどんどん箸が進む。おこげの香ばしさも絶妙だ。冷めてもおいしく、おにぎりに軽く塩を振っただけで贅沢なごちそうになる。

 我が国有数の美味を誇るお米、これから盛夏に向かって続々と旬を迎える野菜たち、鴨川は、高品質な農産物を育む美食の大地。若手農家のエネルギッシュな取組みが、恵まれた土壌と温暖な気候のポテンシャルを最大限に引き出している。農業の可能性はまだまだ広がりそうだ。

取材協力/
鈴木農園:鴨川市貝渚1224
満田園芸:鴨川市貝渚1461

取材・文/山内泉

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